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東京地方裁判所 昭和30年(ヨ)4054号 決定 1955年6月25日

申請人 東京測範株式会社

被申請人 東京測範労働組合

主文

一、別紙物件目録記載の建物(別紙図面朱線で囲まれた部分)に対する被申請人組合の占有を解いて、これを申請人会社の委任した東京地方裁判所執行吏の保管に移す。

二、執行吏は、別紙物件目録記載の建物内に被申請人組合の組合員並に第三者を立入らしめてはならない。

三、執行吏は、その現状を変更しないことを条件として右の物件を申請人会社及びその指定する者に使用させることができる。

四、執行吏は、前各項の趣旨を明らかならしめるため適当の公示方法をとることができる。

(注、無保証)

(裁判官 西川美数 綿引末男 三好達)

(別紙省略)

【参考資料】

仮処分命令申請

申請人 東京測範株式会社

被申請人 東京測範労働組合

申請の趣旨

一、別紙物件目録記載の建物に対する被申請人組合の占有を解いて、これを申請人会社の委任した東京地方裁判所執行吏の保管に移す。

二、執行吏は別紙物件目録記載の建物内に被申請人組合の組合員並に第三者を立入らしめてはならない。

三、執行吏はその現状を変更しないことを条件として右の物件を申請人会社及その指定する者に使用させなければならない。

四、執行吏は、右物件がその保管に係るものであることを公示する為適当の方法をとらなければならない。

との裁判を求める。

申請の理由

一、申請人会社(以下会社という)はゲージ、精密機器等の製作販売及之に附帯する業務を目的とし、肩書地に本社及工場を有する資本金壱千万円也の株式会社であつて、その従業員総数は現在一六六名である。

二、被申請人組合(以下組合という)は昭和三十年六月二十日、組合結成の通告を会社によこした許りであつて、会社より組合員の数名簿等の提示を求めたが、之に応じない為に不明であるが、後述の如く組合長の指揮の下に会社の工場を占拠している者の数は約三十名前後である。従つて未だ労働協約という様なものも存しない。

三、会社は昭和二十九年に於ける政府のデフレ政策、緊縮財政の実施による経済不況の影響をうけて、次第にその製品の需要が減少する一方、受註単価の切下げを余儀なくせられた結果、経営は次第に困難となり、遂に本年初頭以来営業欠損を生ずるに至つた。ところが本年に入つても経済界好転の見透しはなく、会社の現状並に将来の業務の見透し等を綜合してみても決して楽観を許さず、愈々企業合理化を実施せざるを得なくなつた。この整理による解雇に該当するものは十三名で、他に会社の退職勧告により十四名が任意退職した。

四、紛争経過

(一) 之に対して六月二十日組合結成の通告があり、会社の解雇撤回を要求し、午前六時四十分頃から組合長指揮の下に組合員四、五十名が正門前でピケを張り、午前七時半出勤せんとした社長並に常務取締役の出勤を阻止妨害し、続いて七時四十五分赤旗を先頭に守衛並に会社幹部の阻止に拘らず、強引に会社の工場内に不法侵入し、職場内に座り込みを始めた。

組合員でない会社製造部の従業員約五十名が始業時刻である午前八時より職場に於て会社の就業命令に従つて就業せんとしたが、座り込みの組合員等は之に対して口々に「資本家の犬だ」「馬鹿野郎」等と猛烈なばり雑言を浴せて脅迫し、その就業を妨害し、会社が始業の為送電したのを会社の制止をきかずに、スイッチを遮断して送電を停止し、又機械と機械の間に座り込んで流れ作業を遮断してその作業を全然不能ならしめた。

更に午前十時頃解雇問題等五項目に至る団体交渉を申入れると共に、会社の制止に拘らず、外部団体の者約三名を工場内に招じ入れ、午後二時頃には更に数名の者を入れ、たえずアヂ演説を行い、赤旗をふり、労働歌を高唱し、終日会社の操業を妨害した。その間会社は再三組合に抗議を申入れ職場よりの退去を要求したが、言を左右にして之に応ぜざるのみか、午後五時半頃になるや、組合長の指揮によつて工場内の窓、扉等を内部より全部釘付けし、夜に入るや、完全に工場を占拠したのである。

(二) 翌二十一日早朝会社より始業の為に組合員の退去を要求したが、之に対しても頑として応じない現状である。之が為に折柄出勤した従業員七〇名は職場に入ることすら出来ず、前日同様の状能で工場占拠を続けている。

五、仮処分の必要性

会社は前述の如く、ゲージ、精密測定器の製作販売を業としているが、組合の占拠中の工場は之等の唯一の製造工場である。この中には精密顕微鏡、測定器その他精密機械類が大小併せて約四百台あり、之等は何れも高度の精密度を要するもの許りで、之が二十日早朝以来組合の占拠下にあり、その内部が何うなつているかも把握し得ない状態である。之がため会社で最も憂慮すべき事は次の通りである。

(イ) 精密機械工具で最も慎重な取扱を要するのは顕微鏡である。之は震動とか持運び等によつても誤差を生ずるおそれがあり、もし誤差の生じたときは修理に多額の費用と日数を要するものである。

外国製品の部分は修理不可能のおそれもある。

このけんび鏡の入つた箱が正門を入つたところの工場入口扉の内側に移動され、バリケード代りに使用されている現状であつて、会社がもしこれを押開く等の行為に出た時は、けんび鏡がこわれるといつた全く悪質な破壊手段に出ている。

(ロ) 精密工作機械中約十台が外国製品で之の部品等が失われ、又は破損すれば、之の修理又は補充が困難である。二十日に外部より散見できたところによれば、組合員が現に機械の上にのつたり座つたりしていた。

(ハ) 更に工場内には製造工程中の半製品が作業台の上にある。之をこのまま放置すれば湿潤の梅雨期では手をふれた後一日で発錆し、之をおとすとすればゲージの寸法がくるつて廃品同様となる。

(ニ) 会社の製品は国内業者並に進駐軍からの註文により、その規格はすべて発註者のオーダーによるものでその製作工程は約二ケ月を要するものが多く、会社がもし之らを所定の納期に納入できず、解約せられれば之らの製品を他へ販売することは全然できない性質のものである。現在受註をうけ製作過程にある納期の切迫した製品は約壱千二百万円相当あり、之らの製作が職場占拠のため全然不能の状態にある。

もしそうなれば会社の蒙る損害はもとよりその信用を失墜するに至り、会社の甚大なる影響をうけること必至である。

(ホ) 会社は現在までに毎月約五百万円の欠損を示しその業績は憂慮すべき現状にある。従つて会社は早急に操業を開始しなければ更に之等の欠損は累増する許りで、会社の経営自体も危胎にひんするという現状にある。

よつて取敢えずその妨害の排除を求める為本申請に及ぶ次第である。

昭和三十年六月二十一日

右申請人代理人 橋本武人 外四名

東京地方裁判所御中

(別紙省略)

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